車両の損傷程度と治療費打ち切りの関係について
「車両の損傷が軽微だから治療が長期にわたることはないという保険会社の言い分」
保険会社が、車両の損傷が軽微であることを理由に治療費の支払いを打ち切ろうとしてくることがあります。実際に当事務所にもそういった相談でご来所される交通事故被害者の方がいらっしゃいます。保険会社は車両の損傷が軽微であれば後遺障害の対象となる症状もないだろうと主張してくる場合があります。
このような保険会社の言い分が全て正しいとはいえません。実際に当事務所で後遺障害認定申請を行ったお客様の中にも、車両の損傷が軽微であっても後遺障害等級の認定に至った方がいらっしゃいます。しかし車両の損傷が大きい場合の方が後遺障害等級認定される確率が圧倒的に高いことも事実です。
どちらにしても、事故に遭遇した日からどのくらいの期間が経ってから治療費の支払い打ち切りを告げられたのかにもよりますが、打ち切りの後は治療しなくていい訳ではありませんし、車両の損傷が軽微であっても治療期間は短くていいとは限りません。
「車両の損傷は大きくないけれど治療費打ち切り後も治療しなければならない場合とは」
車両の損傷が軽微であるにも関わらず治療費の支払い打ち切り後も治療しなければならないことがあります。
一つは加害車両の運動エネルギーが被害車両にそのまま伝わり、被害車両の損傷が少なくて済んだ場合です。例えば路面が非常に滑りやすい状態で後方車が前方車に追突するなどした場合です。人体は車両よりも軟部組織で構成されています。車両より人体の方が損傷されやすいのです。車両の損傷が大きくないとしても、頸部痛や腰部痛などの症状が現れることがあります。
もう一つは被害車両が頑丈な車両であったために損傷が小さく済んだ場合です。しかし被害車両が頑丈な場合には加害車両は損傷しますので、治療費打ち切りに対抗することは難しくありません。
最後に、もともと首や腰に加齢に伴う変性所見があり、痛みが誘発された場合です。これは車両や人体への衝撃が大きくなくてもあり得ることです。そもそも人は年齢を重ねるに連れて椎間板の水分が徐々に失われていきます。特に30歳を超えると次第に水分が失われ、外力が加わった時に痛みが出やすい状態になります。この場合は事故に遭遇した影響で痛みが出たとも言えますし、事故による影響ではなく年齢を重ねたことによるものだとも言えます。しかしこの場合でも後遺障害等級認定の獲得は不可能ではありません。症状によってではありますが、交渉次第で保険会社に相当な治療期間を認めさせることができる可能性もあります。中には裁判をしても厳しい判断のままであることもあります。
最高裁の判例の一つでは、「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存じない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできない」と判示したものがあります。すなわち、ある身体的な特徴があったとしても、その身体的特徴が疾患ではないと判断されれば、損害賠償額への影響はないという判断になっています。
しかしむち打ちによる神経症状は他覚所見に現れません。そのため、精神的なものが原因で現れた症状である可能性や仮病である可能性もゼロではないので裁判所は賠償金額を低く見積もることが多くあります。この時、治療期間を短くしたり、割合的に減額したりして調整をするのです。
「当事務所にお任せください」
保険会社では、以上のように様々な事例を基にして、車両の損傷が大きくないので治療費の立替払いは今月までで打ち切りにしますなどと告げてくるのです。
我々弁護士はその保険会社がいっていることが本当に適切なのかどうか検討します。その上で徹底的に争っていく方がいいのか、それとも早い解決に導いた方がいいのかを判断していきます。